2012年7月30日月曜日

マッキンダー「デモクラシーの理想と現実」より



15頁より抜粋

まず最初にヴォルテールのような啓蒙家的な人物が登場する。彼のばあいはフランス国の政府という名で呼ばれた経営組織体の現状を批判するところから始める。そして次にルソーのような思想家が、より幸福な社会のありかたをえがきだす。それから大百科事典の著者たちが、そのような社会のための物的条件が存在することを立証する。やがて新しい考え方が、一部の善意な情熱家達の心をとらえるようになる。おしなべて彼らには、一般的な人間の生活上のしきたりを変えるというようなむずかしい仕事の経験が乏しい。が、そのうちにともかく、彼らはフランス社会の構造を変革するきっかけを手に入れることになる。結果として起こるのが、不本意ながらも、その進行の停滞である。やがて労働は中止され、現実に生産設備や政府機構の破壊が行われ、経験を積んだ管理者が馘になり、その後釜にはろくに仕事を知らない素人がすわる。そして、あげくのはてに生活必需品の生産はガタ落ちになり、最終的には物価が上昇して、社会的な信頼感の失墜や信用の崩壊が始まる、というのがおきまりのコースである。
当初、革命の指導者達は、その理想を達成するために、さしあたりの貧乏は覚悟の上だろう。しかしながら、彼らの周辺には何百万の飢えた大衆が群がっている。そこで時を稼ぐために、これらの大衆にたいしては、すでに権力を失ったこれまでの実力者達があれこれと妨害策を行っているせいで、このような欠乏が起こっているのだ、という疑惑の感情が植えつけられる。ここで必然的に発生するのが恐怖の支配である。とどのつまり一般の人間は宿命主義者となり、一切の理想を捨てて、ともかくも社会の能率を回復してくれる組織的な指導者の姿を追い求めるようになる。